てのひらアート® 板鼻美幸さん
コスギーズ!とは…
利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、活躍している人をご紹介していきます!
たくさんの手が集まって出来上がるアート その原動力は楽しさ
第4回目となる今回は、中原区を中心に活動するアーティスト・板鼻美幸(いたはなみゆき)さんに登場していただきました。
2021年の川崎市市勢要覧の表紙に採用された「てのひらアート®」。729人の川崎市民の手形を集めて創られたアート作品は、板鼻美幸さんの手によるものでした。
1年生と3年生のお子さんを育てるお母さんであり、育休中に難関の一級建築士資格を取得するという、努力家の面も持つ板鼻さん。そのキラキラと輝く創作の原動力や、素顔に迫ります。
始まりは、武蔵小杉のフリーマーケット
「地域のママ友とのフリーマーケットから始まったんですよ。子どもが生まれて、育休中に武蔵小杉の二ヶ領用水で毎年春に催す『さくらまつり』に出ようと誘われて。ものを売るのも良いけれど、何か体験ができるようなことができないかなと考えて、手形をアートしたら面白いかもしれないと思ったんです。」
〈「てのひらアート®」が原点となったフリーマーケット〉
板鼻さんの肩書は現在フリーの空間デザイナーですが、その頃は会社員として仕事をしていました。
育休のときに手形を使って造形するアート作品を創り始めましたが、さまざまな方とのコラボレーションを経て「てのひらアート®」の作家として活動するようになりました。そして今後の活動のことも考えて、一級建築士の資格を取得したのもこの時期でした。
「あの頃は、中原区が発行していた『ミミケロの子育て情報誌』カレンダーをチェックして、子ども2人を自転車に乗せ、読み聞かせや演奏会、手遊び会などあちこちに参加していました。子育て中は、一人で家にいるとだんだん鬱々としてきてしまい、誰かと話したくなるので外に出るようにしていたんです。そうして行動しているうちに、仕事だけではなく、もっと子どもたちと一緒に楽しめるようなものを創りたいと思うようになりました。母親が保育士だったことも影響しているかもしれませんね。」
子どもが小さい時期の子育ては、社会から少し取り残されたような気持ちになってしまうことも多いものです。できるだけアクティブに、少しでもクリエイティブなことをしたいと考えるのは、特にものづくりを仕事にしていた板鼻さんなら当然のことですね。
言い切ることは大切
子どもたちと作った「てのひらアート®」はとても好評で、多くの人が喜んでくれたことに板鼻さんは手応えを感じました。そして活動を続けていたとき、友人を介してスケッチブックの企業から、新製品発表会でパフォーマンスをしてほしいという依頼がありました。
「有名企業とのお仕事だったので、思いきって大きな作品を創ることに決めました。そして「アーティスト・板鼻美幸」とはじめて名乗ることにしました。どんなことも言い切ってしまうと強いですね。当日は来場した人たちにどんどん手形を押してもらって、羽を広げた大きな孔雀の絵をみんなで創りあげました。スーツ姿の人たちも、本当に楽しそうに笑顔で押していってくれて。“ああ、これはすごく楽しくて、すごく面白いことなんだ”と改めて実感しました。そのパフォーマンスがとても好評だったため、周年行事にも呼んでいたただきました。」
〈新製品発表会の様子〉
〈てのひらアート®で完成した孔雀絵の前で〉
ご自身の仕事をしながら、週末だけ活動していた「てのひらアート®」がだんだん軌道に乗ってきたため、板鼻さんは会社を辞めてフリーランスで活動をしていくことに決めました。仕事のように与えられたタスクをこなすのではなく、人とのつながりから生まれるアート活動に可能性を感じ、いろいろなことに挑戦したくなりました。地域の女性たちによる農園を舞台にしたフェスに出展したり、川崎の企業が開発した水で消える絵具「キットパス」を使って絵を描いたり…。可能性を現実に、挑戦を行動に、たくさん活動の幅を広げていきました。
〈キットパスを使って〉
コロナ禍でも地域での活動を
その矢先に突然コロナ禍となり、定期的に行ってきた活動を中止せざるをえない日々が続きました。しかし、“今こそ「アートの力」を!”と、地元企業と手を組み、川崎市市勢要覧2021「カワサキノコト」の表紙を創るお仕事をいただきました。本来は人と手を触れ合わなければ創れない「てのひらアート®」を、デジタルの力でリモート創作するというのは、はじめての試みでした。
「お互いに離れたところにいるのに、「てのひらアート®」ができるなんて思ってもいませんでした。まさにコロナ禍だからこそ出来上がったアートですよね。」
〈川崎市市勢要覧「カワサキノコト」表紙〉
川崎市内の北部から南部まで、予想を遥かに上回る老若男女総勢729人が参加した、この「てのひらアート®」は、コロナ禍により分断された人々が心をつなぎ、再び手を取り合うことを求める姿の象徴となりました。板鼻さんの活動は、その後も東京2020パラリンピック関連のイベントでパフォーマンスをしたり、支援学校や高齢者サービス施設の取り組みを行ったりと、地域での活動はますます広がっていきました。
人生は喜ばせごっこ
板鼻さんの好きな言葉に、やなせたかしさんの「人生は喜ばせごっこ」というのがあります。
「自分ができることで人を喜ばせたい、と思ってやってきました。誰かが喜んでくれると、私自身もうれしい。だから、娘たちにも好きなことをやって人を喜ばせてごらん、と伝えています。歌が好きな上の娘には音楽をやらせてあげて、絵を描くのが好きな下の娘には私の画材も自由に使ってもらっています。子育てってうまくいかないこともたくさんあるので、仕事をしていても、自分なりに一生懸命やれば失敗したっていいんだ、またやれるんだ、という気持ちを持つことができるようになったのは、子どもたちのおかげです。」
〈笑顔が輝く〉
「ごっこ」というのにとても共感が持てますね。「ごっこ遊び」だから失敗しても良いし、怖がらずいろいろなことにチャレンジもできる。それらは次につながっていきます。
「てのひらアート®」を創り、その経験やつながりを生かしながら設計のお仕事もしっかりとされている板鼻さん。その目覚ましいご活躍の秘密は「人を喜ばせることを楽しむこと」でした。子どもたちにもしっかりと向けられているその笑顔は、キラキラと輝いて見えました。
市内のイベントや施設でも板鼻さんの作品を見かけることがあるかもしれません。その時は笑顔で楽しい気持ちで見てください。
これからのご活躍がますます楽しみです!
プロフィール
板鼻美幸
アトリエサキアン代表。宮城県仙台市出身。中原区在住。2児の母。自身が考案した「てのひらアート®」というアートパフォーマンスを、ビッグアートや親子向けワークショップなどさまざまな形で展開中。空間デザイナーとして全国の美術館の展示デザインも手がける。
ライター プロフィール
ASH
ライター業のほか、琵琶を弾き歌い、語り継ぐことをライフワークにする俳優。旅と出会いとおいしいお酒がインスピレーションの源。
カメラマン プロフィール
岩田耕平
25歳からの14年間で1万人を超える家族をフォトスタジオで撮影。15店舗のフォトスタジオで撮影トレーナーを務め、個人ではカメラマンとして人と人をつなぐ撮影を展開。