新城ファーム 井上兄弟
コスギーズ!とは…
利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、活躍している人をご紹介していきます!
新城ファーム 井上兄弟
父のおかげで地域との繋がりが広がる。兄弟で手掛ける都市型いちご農園
武蔵新城に誕生した都市型農園
中原区にいちご農園があることをご存知でしょうか?
武蔵新城の駅からすぐの住宅街に販売所があり、そちらからさらに7分ほど北西に進むと、業務スーパーの先にビニールハウスが見えてきます。
こちらは、昨年2024年の1月にオープンしたいちごハウス「SHINJO FARM」。手がけているのは、武蔵新城生まれの兄弟、井上稔夫さんと、法久さんです。
本日は、中原区で初めてとなるいちごの栽培と、いちご狩りを楽しむ観光農園としてのいちごハウスの運営に挑戦するSHINJO FARMにお邪魔して、ご兄弟のお話を伺ってきました。
武蔵新城の農家に生まれた兄弟
武蔵新城で生まれ育ったおふたり。間にもう一人ご兄弟がいて、妹さんもいらっしゃいます。長男・稔夫さんに大きな影響を受けていた三男・法久さんは、何かにつけてお兄さんと同じ場所にいることが多かったそうです。
「兄がサッカーをやっていたので、自然にサッカーをするようになりました。ポジションまで一緒で、ふたりともキーパーでした。」
「新城郷土芸能も、一緒にやっていたよね。学生時代も同じ日雇いのバイトしたりとか。」
小さい頃から、一緒に何かをすることに慣れていたんですね。
「他のふたりも、就農はしていませんが、新城ファームを応援して、忙しい時は手伝ってくれています。」
とても仲のいい井上兄弟です。
オープンして1年
はじめてこちらにお邪魔してからちょうど一年が経とうとしていますね、あの時はまさにこれから始めるところで、緊張感もあったと思いますが、一年やってきていかがでしたか?
稔夫さん「最初はやっぱり、いろいろ不安もありました。一発目のいちごができて、一応作れたな、と思って自信に繋がっていきました。同時にもっと美味しいものができたんじゃないか、と納得していない自分もいます。それが、今の意欲の原動力です。」
中原区初のいちご農園は、大きな話題になりました。あちらこちらでイベントにひっぱりだこで、忙しい一年だったのでは?
稔夫さん「やっぱりいちごの力ってすごいな、って思いました。直売に来てくれる人からも直接感想を聴けるし、まったく知らない方からSNSで『すごく美味しかったのでまた買いに行きます』ってメッセージをもらうこともあります。そもそもSNS自体、いちごを始めなかったらやっていなかった。すごく励みになっています。」
都市ならではの、農業へのアプローチがあるのかもしれませんね。
都市の農業の形
夕方にこの前の道を通ると、ハウスがピンク色に輝いているというような目撃情報もあるのですがいちごの演出でしょうか。
「ああ、あれはアザミウマっていう害虫を撃退してくれるというふれこみの照明なんです。その赤色LEDの会社の方が、武蔵小杉在住で、僕もプロモーション映像に出演しました。つけてからまだ4ヶ月くらいなので、効果はわかりませんが、ちゃんと効いていれば収穫量もあがるので楽しみです。」
ピンク色のハウスは、なんだか可愛いですね。周囲からも目立つし、イルミネーションのようです。
「住宅街の中にあるいちごハウスなので、いろいろと制約も多い代わりに、それを補うように便利な機械を導入して、工夫をしています。たとえば、ハウスのなかに時間管理で二酸化炭素を放出して、二酸化炭素濃度を一定にしてくれる装置とか。」
法久さん「こっちのは、温湯管といって、土の中にお湯の流れるパイプが入っていて、土の温度をあげてくれます。冬の早朝にいちごが一番成長するんですが、その時に土を温めて根が張れるようにします。限られたスペースを上手に使えるので、まさに都市型農園向きです。」
真冬ですが、ハウスのなかは30度くらい。
ご兄弟は半袖Tシャツですし、もちろん我々も着ていたコートは脱いでいます。
稔夫さん「暖房で温めていますが、暑すぎてもよくないので、ハウスの天井が自動で開いて温度調節してくれます。自動ですが、日によって細かい調整が必要になります。」
ハイテクですね。
稔夫さん「昨年は設備をうまく使いこなせなくて、失敗もしました。今年はようやく少し使えているかな、という実感もあります。」
稔夫さん「これは今年から導入したんですが、液体肥料を細かい粒子状にして、散布する機械です。植物が肥料を吸う方法としては、光合成して水を吸って肥料 を蓄える方法と、液体肥料をかけて、葉っぱから吸収させる方法があるんですけど、これは後者です。」
これも、時間によって動くのですが、稔夫さんが特別に稼働するところを見せてくれました。おおー!と盛り上がる取材陣。
稔夫さん「この肥料は、この会社の社長さんが毎日飲んでたり、お風呂に入れてたりするっていうくらい、体に入れても全然大丈夫というもので、僕らも安心して使っています。」
この葉っぱが白くなっているのはその肥料が残っている?
稔夫さん「これは、日中に根っこから吸い上げた養分が、夜の間に葉っぱまで行き渡って
外に出るので、根っこがきちんと張れているサインなんです。身体に悪いものではないので安心してくださいね。」
生物の授業で習った植物の光合成の仕組みを思い出しました。
こうやって実際の作物を見ながら、実感としてわかるのは子供たちにも楽しいでしょうね。
生き物たちの世界
ビニールハウスの中で忙しく働いているのは、機械だけではありません。
入ってきた時にすれ違ったのは、ゆっくりとハウスの中を飛んでいく蜂さんたち。
大きいけれど、羽音はそれほど大きくなくて、花から花へとふわふわ飛び回る、その可愛い動きについ見入ってしまいます。
稔夫さん「クロマルハナバチっていう蜂で、とっても優しい性格なので、こっちが悪いことをしない限り刺されることはないです。こっちに巣箱があるんです。」
見せていただいたのは、なんとダンボールの巣箱!
仕切りを上げ下げすると、中からクロマルハナバチさんが続々と出てくる、出てくる…。
めちゃくちゃ可愛いです!
仕事が終わるとちゃんとこの巣箱に帰ってきて、反対側の丸から入っていくのですって。
どこかで寄り道して一杯ひっかけたりしないんです(笑)。 優秀ですね。
稔夫さん「このハチ以外にも働きものがいます。いちごの生育を邪魔してしまうダニがいるんですが、それを食べてくれるダニがいて、それを各レーンにふりかけるようにして働いてもらってます。小さくて、僕らにも全然見えないんですけど。」
虫には虫を、でいちごを守るんですね。
稔夫さん「けっこう世話が大変なんです。農薬を使えばもっと簡単なんですが、子どもたちも食べるし、あんまりやりたくないです。安心して食べてもらいたいので。」
ふたりが就農するまで
こうやって、工夫を凝らしながら新しい農園を運営しているおふたりは、どのような経緯を経て就農することになったのでしょうか。
稔夫さん「農家に生まれたんで、いつかは実家の農園をやる日が来るかもみたいなことは、僕小さい時からなんとなく言われてたんですけど。状況もいろいろ変わってくるので、確かなことは全然わからなかったです。人数的には、長男と誰かがいれば回るかな、というくらいの作業量でした。それで、大学では工学部に進み、鉄道会社に就職しました。」
電車のお仕事だったんですか?
「保守点検の仕事を5年していました。弟の方が就農は先でしたね。」
法久さんは、どういう経緯を経ていらしたのでしょうか。
法久さん「僕は、武蔵小杉にある法政二高から、大学のデザイン工学という学部に進みました。映像の大道具なんかを作る仕事に就いて、3年くらい働いた後に、転職しようと思って退職して、しばらく家業を手伝っていたんです。ちょうど、家の農業も法人化してもっと収益をあげよう、となると、人が足りないということになったので、それならここで働いてもいいな、と。」
デザインがお得意で、SHINJO FARMのロゴなどもご自分でデザインされたんですよね。
法久さん「学生の時に勉強したことが生かせてますね、もっとグッズとか、SHINJO FARMを知っていただけるような面白いものを作っていきたいんです。」
稔夫さん「やっぱり、いきなり就農するのではなく、外の企業などで働いたことがいまプラスになっているな、と思います。」
どんな面でしょうか?
稔夫さん「商談の場ももちろんあるんですけど、社会人の時に営業の方を横で見ていて、その進め方を思い出したり。僕は最後、企画部だったんですが、そこでの経験があるから、こういう風に話せば大丈夫だな、と余裕を持って向き合えたり。いろいろな面で活かせたなって思います。」
法久さん「僕はデスクワークの会社じゃなくて、体力仕事だったので、自然と馴染む感じです。やっぱり、体を動かしているのが楽しいですね。」
今後の展望
ご兄弟で力をあわせて、家業の農業を都市型にアップデートしてきたおふたり。
今後は、どのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか。
稔夫さん「こうやって、実際にいちご狩りもできる農園を始めてみると、本当に地域のみなさまが応援してくれているのを感じるんです。もともと、名前をつける時にも、SHINJO FARMなんて新城の名前を借りちゃってますが、それも、自分たちの農園というよりは、地域のみなさまに楽しんでもらえる農園というイメージで作りたかったんです。」
法久さん「父が、なんというかすごく顔の広い人なんです。昨年は学校の給食でもうちのいちごを出してもらったんですが、そういうのも、昔父がPTAの会長をやっていたご縁で。地元の商店街のお祭りにも、出店させてもらいました。」
武蔵新城の夜店市「にぎどん」にも出店していらっしゃいましたね。
稔夫さん「おかげさまで、削り苺がよく売れました」
稔夫さん「僕たちみたいな素人が大々的にやってると、なんか文句をいう人もいるだろうな、と思っていたんですが、地元の人たちがすごく協力してくれて、あんまりそういう声を聞かないんです。だから、僕たちも恩返しじゃないけど、もっと期待に応えて、地元を盛り上げていきたいという思いが強いです。」
周囲にたくさんの人がいて、交通の利便性もいい武蔵新城だからこそのいちご作りができているんじゃないでしょうか。
稔夫さん「そうですね、第三京浜も近いので、いちごを出荷する時にも楽だと言ってもらえています。住んでいる人が多いのも、家から歩いて来られるいちご農園ということで、喜んでもらえるのかなと。」
とっても魅力的です。
いちごがあると、みんなが笑顔になる
いちごの出来る量が安定してくると、いよいよいちご狩りが始まります。
昨年取材に伺ったいちご狩りでは、ハウスのなかの誰もがニコニコしながらいちごを食べているのが、とても印象的でした。
みなさん、今年も待ち望んでいます。地域のみなさまにメッセージをお願いします。
稔夫さん「とにかく、いろいろなことを試行錯誤中ですが、いちごのおかげで地域とも繋がれてありがたいです。中原区で唯一、いちご狩りができる農園なので、ぜひ一度遊びに来てください!」
法久さん「兄弟で仲良く、一生懸命いちごを育ててますので、ぜひ会いに来てください。」
稔夫さん、法久さん、どうもありがとうございました!
新城のみなさんの期待が詰まった「新城いちご」が、区内のみならず周囲のいろいろな人を笑顔にして、広がっていくのがとても楽しみです。
ライター プロフィール
Ash
俳優・琵琶弾き。「ストリート・ストーリーテラー」として、街で会った人の物語を聴き、歌や文章に紡いでいくアート活動をしている。旅とおいしいお酒がインスピレーションの源。