この街大スキ武蔵小杉

コスギーズ

武蔵小杉で活躍する人を紹介します!

2022.08.18

こすぎの大学のみなさん

コスギーズ!とは...

利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、活躍している人をご紹介していきます!

 

地域に濃度のあるつながりを創出する「こすぎの大学」 民俗学的価値のあるサードプレイス

 

みなさんは、武蔵小杉に友達がいらっしゃいますか?

私は、今でこそ街を歩けばすぐに声をかけられてしまうくらい、武蔵小杉に友達が増えましたが、10年前までは誰一人いませんでした。仕事は都内の現場に直行するし、食事も地域のお店を利用することはほとんどなかったのです。そのわたしが変わったきっかけは「こすぎの大学」に参加したことでした。

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(写真:こすぎの大学を主宰する岡本克彦さん(前列左から2番目)、ライターAsh(後列左から1番目)と常連の皆さん)

 

ソーシャル系大学? コミュニティカレッジ?

 

さて、「こすぎの大学」とは一体なんぞや? というところから話を進めていきますね。

それは2013年に、武蔵小杉在住で大手電機メーカーに務める岡本克彦さんが、地元に住む人たちに声をかけて立ち上げた「コミュニティカレッジ(ソーシャル系大学)」でした。ソーシャル系大学というのは、行政によるものではなく、地域に「学びの場」を創出し、そこで人が交流することで地域を活発にしていこうという活動のことを指します。

 

こすぎの大学では、面白い活動をしている人を講師に招き、新しい知見を得ます。ワークショップを通じてさまざまなテーマについて学びを深め、最後に発表するという形式をとっていました。単に知識を得るだけではなく、最終的にアウトプットすることで、自分自身が地域にどのようにコミットできるかということを思考し、行動につながっていきます。

 

わたしも2015年のこすぎの大学の28回に登壇させていただいたことにより、地域の見え方ががらりと変わり、武蔵小杉が「寝泊りする街」から「友人たちと助け合いながら子育てをして、自分も成長するために深く関わっていく街」へと変わっていったのです。

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(写真:こすぎの大学のワークショップの発表の様子(第34回「こすぎの大学 with 川崎市役所 第2弾〜武蔵小杉のミライ学〜」(2016年3月11日))

 

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(写真:こすぎの大学のワークショップの発表の様子(第42回「こすぎの大学~武蔵小杉のトイレから地球革命~」(2016年9月9日))

 

まさに学生時代のように出入りが自由な場を

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(写真:岡本克彦さん=オカポン)

 

こすぎの大学を主宰する岡本さんのあだ名は、苗字を途中から音読みにした「オカポン」。「岡本さん」と呼びかけるとすかさず「オカポンって呼んでくださいね」と返ってくるほど定着し、またご本人も気に入っている名前だそう。初めて参加する人が自然と場になじめるようにさりげなく常連メンバーに紹介するなどの、細かい気遣いを欠かしません。

 

こすぎの大学の魅力は、このオカポンさんをはじめとする運営メンバーの受け入れ態勢の柔軟さにあるとも言えます。

 

「自分自身が、閉鎖的なコミュニティが苦手なんです。マンションコミュニティや町内会のように、一旦入ってしまうと抜けにくいものにしたくなかった。こすぎの大学は出入りが自由なんです。興味があるテーマの時は参加して、興味がなかったらこなくても構わない。きっかけがなんであれ、参加してみたいと思ってくれた人には気軽に入ってこられる雰囲気を作りたいです。」

 

そうおっしゃるオカポンさんの柔和な笑顔が、すでに人を惹きつけるオーラを持っています 。

 

広がる友達の輪

 

こすぎの大学に参加したおかげで、地域にはさまざまな活動をしている人がいて、その人たちの活動の知見に耳を傾けることは、時に高いお金を払ってビジネススクールに行くのと同じくらいの価値があるのだということを知ることができました。

 

毎回、年齢や性別を問わず多様性のあるメンバーが参加しているので、普段自分の思考や行動の範囲では気がつかないようなことに気づかせてもらえることが、大きな学びに繋がることも。

 

この日は、こすぎの大学が始まったばかりの頃によく会場となっていた「小杉三丁目会館」に3人の「学生」さんたちが集まっていたので、お話をうかがいました。

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(写真:都内の企業にお勤めの鈴木さおりさん)

 

鈴木さん「私の住まいは溝の口なんです。初期のこすぎの大学に先生役として登壇した山本さん(『こすぎの大学第5回〜武蔵●●から武蔵小杉を知るシリーズ第1弾〜』(2014年1月10日))と、ママ友を介して知り合い、こすぎの大学のことを教えてもらって、面白そうだと思っていました。」

 

鈴木さん「しばらくはそういうものがあるんだ、くらいの認識だったんですが、武蔵小杉が発展してきて買い物などに立ち寄ることも多くなったので、思い切って参加してみたらすごく楽しかったんです。毎回いろいろなテーマで活躍している人の話を聞くことができて、自分の中にもどんどん新しいアイデアがわいてくるんですよ。」

 

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(写真:武蔵小杉東急スクエアの店舗にお勤めの茅記子さん)

 

茅さん「私は、キッズベースキャンプの回(第73回『こすぎの大学~子育てが楽しい武蔵小杉~』(2018年12月14日))からの参加です。自分自身、それまでは子育てが忙しくて夜に出掛けるなんてことが難しかったんですが、子どもが中学生になってすこし余裕がでてきたタイミングでもあり、気になっていた『こすぎの大学』に参加してみよう、という気になりました。」

 

茅さん「それまでも保育のボランティアなどで地域に関わってはきていましたが、こすぎの大学に参加したら、年齢層も幅広くて今までとは違うジャンルの友達がたくさんできました。新しい視点で地域を見ることができて、自分の世界も広がりました。」

 

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(写真:子ども食堂「まきまきキッチン」を手掛ける安西巻子さん)

 

安西さん「私は新春特別企画のミュージアムの回(第74回『こすぎの大学~武蔵小杉と川崎市市民ミュージアム~』(2019年1月12日))に初めて参加したんです。普段は入れないミュージアムのバックヤードをツアーしていただいて、所蔵品の説明なども聞くことができ、今思うとすごく貴重な体験でした。その後は毎月、他の用事がない限り参加するようになりました。」

 

安西さん「ワークショップも有意義ですが、私は『放課後』が一番楽しみなんですよね。講義が終わると、駅前の居酒屋さんでみんなで一杯やるんですが、その日の講義のことを振り返りながら、本当に学生に戻ったようにおしゃべりができるこの時間が大好きです。コロナ禍でリアルに乾杯ができなかった間は寂しかった。」

 

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(写真:第112回「こすぎの大学〜武蔵小杉と中原おうちごはん〜」(2022年4月8日)の後、久しぶりに仲間と一緒に「放課後」のひとときを楽しむ安西さん)

 

継続する力とは

 

それにしても、2013年から9年もの間、スタイルを変えずに継続しているのは本当にすごいことだと思います。長く活動を続けてこられた秘訣をオカポンさんにきいてみました。

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「実は一時期、苦しくなった時もあったんです。3年目くらいにメディアへの露出が増えたり、有名な人が登壇してくれたりして、参加人数が一気に増えました。その時は頑張って、しっかりやらなくては、と無理をしていたところもありました。もともとA型気質なので、こうじゃなきゃ、と思いつめて少し周囲にも刺々しくなってしまいました。」

 

3年目というと、ちょうど私が先生役で登壇させていただいた頃ですが、確かに一回の講座に100人近い参加者がいたこともありました。でも、オカポンさんはいつも穏やかに笑っていて、そんな苦労を抱えているなんてことは、まったく気が付きませんでした。

 

「『何のためにこれをやるのか』ということをもう一度考え直したんです。僕は2002年から武蔵小杉に住んでいるんですが、最初はこの街に友達もいなかった。自分の街だと思っていないからたいした愛着もなく、きっとポイ捨ても平気だったと思うんです。でも、自分自身がこの活動を通じて友達ができ、街に対する思いが変わった。自分の街、自分の家だと思うから、もっと良くしたいと思うんですね。ほかでもない、僕自身がやりたかったからやっているんだし、自分自身が楽しめないようじゃいけないと。」

 

 

「だれかのために」ではなく、「自分自身」と、「友達のため」に。

そう思うと、肩の力が抜けたといいます。その思いを運営のメンバーにも共有して、活動を広げるのではなく、お互いにちゃんと知り合えて、関係をつくれるサイズで、より身近な地域の人たちに向けた活動にシフトしていきました。

 

穏やかに微笑むオカポンさんですが、本人もおっしゃるように、とても几帳面で実務家です。この9年の間に試行錯誤した記録はすべて公開できる形で残されていて、コミュニティを長く続けるノウハウについても、毎年その年に得た気づきを加えてスライドショーにしています。「定期開催」「金曜日19時28分スタート」「ニックネーム」など、一枚ずつのスライドにオカポンさんたちが積み上げてきたコミュニティ運営のヒントが丁寧に書かれていて、とても勉強になりますよ。

 

https://www.slideshare.net/katuhiko0821/ver70

 

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(写真:市民参加型街づくりコミュニティのノウハウ集 Ver.7.0 〜こすぎの大学の経験を踏まえて〜より)

 

全国のソーシャル系大学との交流も

 

こすぎの大学のようなソーシャル系大学は、全国のあちこちにあるといいます。それぞれの地域でその特色を活かしながら行われている活動は、地域の資源を活かしながらコミュニティを育てるヒントが満載です。近年はそれらのコミュニティの運営者同士がノウハウを交換するために、一年に一回各地のコミュニティに集結して交流する全国大会「コミュニティカレッジバックステージ」(CCB)が行われているのだそうです。

 

オカポンさんは、毎年運営メンバーと一緒にCCBに参加して、各地のノウハウを体感する時間を大切にしています。

 

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(写真:大阪にある交野おりひめ大学にメンバーと一緒に訪問)

 

「CCBに参加すると、みんな自分の街が好きなんだな、ということを実感して、ますます自分の地域に対しても愛着が生まれます。相対的に、自分たちの街のことを客観的に見られるようになりました。ニョキニョキと生えているタワーマンションも、武蔵小杉の財産です。」

 

コロナ禍では、実際に対面での授業ができなくてZOOMを使った講義が中心になりましたが、そんなとき、逆にオンラインの良さを活かして、CCBで知り合った各地の大学の講義をこすぎの大学の学生に受けてもらうことができました。

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(写真:コロナ禍でオンライン開催だった時期は、その利点を活かして大阪のコミュニティの講師を招いた)

 

地方の都市では、関係人口を創り出すことが大切だと言われています。こすぎの大学を通じて高知や交野とつながることができた参加者は「大阪に行ったら交野に行ってみたい」という気持ちになりました。

 

「CCBは毎年、どこかの地域のソーシャル大学が主催となり、ほかの地域の運営メンバーを招待するシステムなのですが、今年の主催は『こすぎの大学』で、秋には武蔵小杉でほかのコミュニティの運営メンバーを迎えることになります。僕としては、今までこすぎの大学に関わってくれたさまざまな人たちと協力しあって、ほかのコミュニティのメンバーをおもてなしできたら、と思っています。」とオカポンさん。

 

とっても素敵なことですね! 私も会の演出などで何か協力ができたら、と今からワクワクしています。

 

10周年とその先に向かって

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(写真:「つぎはどんなことができるかな、といつもワクワクしている」というこすぎの大学の常連メンバー)

 

「これからを見据えていく中で今、大切だと思っているのは、運営メンバーである『6355』の一人一人にとって意味のある活動であり続けること、武蔵小杉に育ってきているさまざまなコミュニティとコラボレーションしていくことです。」

 

確かに5年くらい前に比べても、武蔵小杉周辺のコミュニティは多岐にわたるジャンルで次々に形成されているような気がします。

 

「川崎は若い世代もとても元気で、しかも相手をリスペクトする姿勢のある人が多い。これは素敵なことですよね。彼らにとって誇れる大人でありたいと思いますし、これからを担う世代が小杉に住み続けたいと思う動機を作りたい。」

 

「この活動を通じて、街の中にいろいろな人の顔が浮かぶようになりました。例えば武蔵小杉東急スクエアといえば茅さんだったり、溝の口といえばさおりさんだったり、子ども食堂のニュースを見れば安西さんの顔が。そうやって街のものごとの一つ一つが実態をもって見えてくるようになると、つながりが希薄じゃなくなってくる。大人が思い出を作る場所としての選択肢の一つであれたらいいなと思います。」

 

希薄でない、ということはつまり濃厚… おお、これこそまさに「こすぎ」!(笑)

まあ、過ぎる必要はないのですが、人と濃度のあるつながりが持てるということは、その人と大切な思い出を共有していることなのだと思います。大学というのは、まさにそういう場ですよね。オカポンさんが最後に言った「大人が思い出を作る場所」という言葉は、不思議な実感をもって私の胸に響きました。

 

ちょうど、観たばかりのドラマである民俗学者が「民俗学とは、みんなの思い出なんだと思います」と言っていました。常々、こすぎの大学には学術的価値があると感じながら、その正体がなかなか言葉にしづらいと感じていた私にとって、なるほど、と腑に落ちたのです。こすぎの大学の活動はこれから25年もたてば、民俗学としての価値を認められるのではないでしょうか。

 

もちろん、民俗学であってもなくても、ここで生まれる価値は一般的な金銭でお勘定できるような価値とはまるで違います。それは一人一人にとって質も量も異なっていて、そして一歩踏み出すだけで誰もが手に入れられるものなのです。

 

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プロフィール

岡本克彦(オカモトカツヒコ=オカポン)

公ではブランド戦略を、私では地域デザインを。

NECに勤務し、ブランド戦略(NEC未来創造会議)を担当。また、自分が住まう街、神奈川県川崎市でソーシャル系大学「こすぎの大学」、シビックプライドに溢れる街づくりを目指した「川崎モラル」を企画運営する。公私を融合させた「働き方」や「楽しみ方」を模索中。

 

ライター プロフィール

ASH

ライター業のほか、琵琶を弾き歌い、語り継ぐことをライフワークにする俳優。旅と出会いとおいしいお酒がインスピレーションの源。

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カメラマン プロフィール

岩田耕平 

25歳からの14年間で1万人を超える家族をフォトスタジオで撮影。15店舗のフォトスタジオで撮影トレーナーを務め、個人ではカメラマンとして人と人をつなぐ撮影を展開。

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